病院の概要

ダビンチ・サージカル・システム

最新ロボット手術システム「da Vinci SP」を導入

埼玉医科大学国際医療センターでは、2025年1月より、最新の手術支援ロボット「da Vinci SP」を導入しました。「da Vinci SP」は、「Single Port(単一ポート)」を意味し、わずか1か所の小さな切開口から、高解像度カメラと3本の多方向に柔軟に動く鉗子を体内に挿入して手術を行います。この技術は、従来の「da Vinci Xi」が必要とする4つ以上の切開を1か所に集約し、患者さんへの侵襲をさらに軽減することを可能にしました。

これにより、患者さんの体表に残る傷が少なくなるだけでなく、術後の疼痛軽減や回復の早期化が期待されます。「da Vinci SP」は、がん手術をはじめとする高精度が求められる外科手術において、安全性と正確性をより高めることができます。

「da Vinci SP」の主な利点

傷口の縮小
「da Vinci SP」では、わずか1か所の小さな切開口からカメラと鉗子を挿入するため、体表に残る傷が大幅に減少します。これにより、術後の痛みが軽減されるだけでなく、傷の治癒が早まり、術後の合併症のリスクも低下します。また、体表に残る傷が目立たないため、審美的な観点でも患者さんにとって大きなメリットがあります。

精密な操作
「da Vinci SP」は、高解像度立体視カメラと、多方向に柔軟に動く鉗子を備えています。術者は人間の手では不可能な細かい操作を正確に行うことができます。特にがん手術では、腫瘍周辺の重要な血管や神経を傷つけるリスクを抑えながら、腫瘍を安全に切除することが可能です。その結果、術後の機能温存が期待でき、患者さんの生活の質(QOL)向上に寄与します。

患者への負担軽減
「da Vinci SP」の単一ポート手術により、従来の多孔式手術と比べて体への負担が大幅に軽減されます。術後の回復が早まるだけでなく、入院期間の短縮や早期の社会復帰が可能となり、患者さんとそのご家族にとって経済的・心理的な負担も軽減されます。

適応領域の拡大
当院では現在、「da Vinci SP」を使用した手術は、一般消化器外科(大腸・肝胆膵)で行われていますが、今後は泌尿器科、婦人科、頭頸部外科、消化器外科(胃)呼吸器外科など、他の診療科にも適応を広げる計画があります。この技術は特に骨盤内や狭い手術部位での操作に強みを発揮するため、適応領域の拡大により、さらに多くの患者さんに恩恵をもたらすことが期待されます。


埼玉医科大学国際医療センター消化器外科 (下部消化管外科)での大腸がん手術

国内有数の大腸がん手術施設
当科では、年間500例以上の原発性大腸がん手術を実施しており、全国でも有数の実績を誇ります。手術では、がんの部位や進行度、患者さんの全身状態を詳細に評価し、個々の患者さんに最適な治療法を選択しています。特に高齢者や併存疾患を持つ患者さんに対しても、安全で効果的な手術を提供できるよう努めています。

低侵襲手術が治療の柱
当科は、低侵襲手術を中心とした治療方針を掲げており、患者さんの体への負担を最小限に抑えることを目指しています。具体的には、以下の手術法を活用しています。

・単孔式腹腔鏡手術
1つの小さな切開口で腹腔鏡手術を行う単孔式腹腔鏡手術は、術後の痛みや体表の傷を最小限に抑えるため、患者さんの満足度が非常に高い手術法です。この技術は特に審美的な観点からも評価されており、若年層や美容面を重視する患者さんにとって有益です。

・ロボット支援手術
当科では、手術支援ロボット「Senhance」、「da Vinci Xi」および「Davinci SP」を用いたロボット支援手術を積極的に導入しています。これにより、通常の腹腔鏡手術では難しい精密な操作が可能となり、腫瘍周囲の血管や神経を傷つけるリスクを大幅に軽減できます。また、排尿・排便機能や性機能の温存にも配慮した治療を提供しており、特に進行がんや複雑な解剖を伴う症例において高い効果を発揮しています。

「da Vinci SP」の導入によるさらなる進化
今回導入した最新ロボット「da Vinci SP」によって、これまでの低侵襲手術の選択肢がさらに拡大しました。「da Vinci SP」の特長である単一ポート手術は、体表の傷口を最小限に抑えるだけでなく、体腔内での自由度の高い操作を可能にします。
当科では「da Vinci SP」の性能を最大限に引き出し、大腸がん患者さんに安全かつ効果的な治療を提供することを目指しています。また、「da Vinci SP」の導入により、これまでの豊富な単孔式腹腔鏡手術およびロボット手術の経験を活かし、埼玉県内で初の大腸領域導入施設として、患者さん一人ひとりの希望や病状に合わせた治療法を提供します。これにより、患者さんの満足度とQOL(生活の質)向上に貢献し、大腸がん治療のさらなる進化を図ります。
当科はこれからも、最新の医療技術を積極的に導入し、患者さんにとって最良の治療を提供していく所存です。



「ダビンチ・サージカル・システム」は2000年に米国のIntuitive Surgical社で開発され、手術支援ロボット分野を牽引してきました。従来行われている腹腔鏡下手術を支援し、安全で患者にやさしい低侵襲な治療を行うことを可能としています。
当院では2022年10月に最新型の第4世代手術支援ロボット「ダビンチXi」を導入し、消化器外科・泌尿器科・呼吸器外科・婦人科など多岐に渡る分野で安全に使用されています。

ダビンチ・サージカル・システムの特徴


ロボット鉗子の動きはコンピュータで制御されており、手振れ防止機能により鉗子先端のブレを最小限に抑えることが出来ます。また、ロボット鉗子の可動域は540度と人間の手首より圧倒的に広く、従来の開腹手術や腹腔鏡下手術では行うことの難しかった複雑な作業が可能となります。
内視鏡はロボットが保持するので手術画像の揺れがなく、安定した画像を見ながら手術を進めることができます。立体感のある3D画像と最大15倍の拡大視効果により、肉眼では認識できなかった血管、神経、臓器の境界を認識できます。

ダビンチ手術のメリット

    • 1. 小さい創口
      従来の開腹手術では大きな手術痕が残ってしまいました。しかし、ダビンチ手術では、腹部に鉗子を挿入する小さな穴(8~12mm)を数か所開けるだけです。手術痕もほとんど目立たず、術後の痛みも軽くなります。
    • 2. 少ない出血量
      二酸化炭素でお腹を膨らませるために、お腹の中が高圧となり開腹手術に比べて出血が少なくなります。また、3Dの拡大画像で肉眼では見えない細かい血管も認識できること、人間の手より可動域が広く精密な操作が可能なロボット鉗子で操作を行うことで開腹手術と比較して非常に出血が少ないという利点があります。
    • 3. 疼痛が少ない
      傷口が小さいことに加え、切開した傷口が広がるのを防ぎ皮膚や筋肉への負担を最小限に抑えるシステムを導入しています。
    • 4. 回復が早い
      手術中の出血が非常に少ない、組織への負担を軽減できる、小さな傷で手術が可能なことから開腹手術に比べ体への負担の少ない手術です。そのため、術後の痛みも従来に比べて少ないため、ほとんどの術式で手術の次の日から歩行することが可能です。

 

Q&A

      • Q1 費用はいくらですか?特別な費用が追加されるのでしょうか?
        診療報酬に収載されている消化器疾患(食道がん、胃がん、膵がん、肝がん、大腸がん、肝胆膵手術)、泌尿器疾患(前立腺がん、腎がん、腎盂がん、尿管がん)、呼吸器外科(肺がん)、婦人科(子宮がん)を対象にロボット手術を実施しております。(2022年10月現在)
        手術の詳細や入院・手術費用などにつきましてはお気軽にお問い合わせください。
      • Q2 もしロボットが動かなくなったらどうするのですか?
        システム障害の発生確率は1%未満と報告されています。システム障害の発生時には異常を自動で検知し、改善方法を提示するようプログラムされています。提示された方法で改善しない場合や、ロボットが停止してしまった際は、素早くかつ容易に、従来の腹腔鏡下用手術または開腹手術に変更いたします。
      • Q3 特殊な手術になるのでしょうか?
        基本的な手術の手順はおおむね従来の腹腔鏡下手術と同じで、過去の実績に基づく安全で確実な方法で行われます。

 

消化器外科領域

      • ・食道がん
        食道がんに対するロボット手術は2018年4月から保険適応になりました。
        食道は心臓、大血管、肺、気管などの重要臓器に囲まれています。食道を切除する際はこれらの重要臓器を損傷しない高い技術が求められます。癌は食道周囲のリンパ節に転移する可能性があるため、食道切除の際はリンパ節も摘出します。声帯の機能に関わる反回神経周囲のリンパ節を摘出する際に、神経を損傷すると嗄声や誤嚥などの合併症をきたしてしまいます。ロボット支援下手術による3D映像と拡大視効果により、重要臓器や神経を正確に認識し、関節を有する鉗子を用いることで安全な手術を提供いたします。
      • ・胃がん
        胃がんに対するロボット手術は2018年4月から保険適応になりました。
        胃がんの手術では胃と胃周囲のリンパ節を切除します。胃は膵臓に隣接しており、膵臓上縁のリンパ節を切除する必要があります。膵臓に鉗子が接触し負荷をかけると、術後に膵液が漏れ重篤な合併症をきたし、治療に難渋することがあります。ロボット支援下手術の利点である、鉗子の先端を自在に操作することで、膵臓への負担を限りなく軽減し膵臓関連の合併症の発症を低くすることが可能と言われています。
      • ・大腸がん(直腸がん、結腸がん)
        直腸がんは2018年4月から、結腸癌は2022年8月からロボット手術が保険適応になりました。
        直腸は狭い骨盤内に存在し、切除の際には排尿、性機能に関する神経や、隣接する多くの臓器や血管を温存する必要があります。関節がり自在な操作が可能なロボットの鉗子を用いることで、狭くて深い骨盤の中でも繊細で安全な操作が可能となります。また拡大視効果のある高画質の3Dフルハイビジョン画像により、血管や神経の認識力が向上し、排尿障害や性機能障害などの合併症発生率の低下が期待されています。
      • ・肝胆膵手術
        2020年度よりロボット支援下膵切除術、2022年度よりロボット支援下肝切除術が保険適用となっています。一部保険適用にならないロボット支援下手術に関しては患者請求は行わず実施しております。
        肝胆膵手術は3次元構造を把握しながら細かい脈管を処理し、切離を進めていくという特徴の手術です。ロボットによる拡大視、立体視が手術の安定性、安全性に大きく寄与することが報告されております。

 

泌尿器科領域

泌尿器科領域では前立腺がん、腎臓がん、膀胱がんが保険適応になっております。

      • ・前立腺がん
        US/MRI融合ターゲット生検による前立腺癌の正確な局在診断とダビンチによる繊細な鉗子操作により、術後の尿禁制及び性機能の温存と癌制御の両立を目指す質の高い手術を行っております。
      • ・腎臓がん
        これまでの腹腔鏡下腎部分切除術の経験から、短い阻血時間により残存腎への負担の少ないロボット支援下腎部分切除術を行っています。また腎門部腫瘍、完全埋没腫瘍、サイズの大きい腫瘍に対する手術も積極的に行っております。
      • ・膀胱がん
        ダビンチの利点を生かし、尿路再建を体腔内で行う術式(ICUD)を積極的におこなっており、小さい傷で出血量が少なく、体に負担の少ない手術が可能になっています。

 

呼吸器外科領域

    • ・肺がん
      肺がんは2020年6月から保険適応になりました。
      肺には肺動静脈という心臓と直接繋がる血管が走行しています。肺を切除する際はこれらの血流豊富な血管損傷を防ぐ必要があります。ロボット支援下手術では関節のある鉗子と高画質の3Dフルハイビジョン画像を用いることで、出血量を最低限にする安全な手術を行えるとされています。またリンパ節郭清や気管支縫合などの精密な操作をようする工程にも有効性が期待されています。